コンビニで缶コーヒーとシュークリームを買う。私のルーティンワークだ。
レジ待ちをしていたら、美しい香りが(形容し難い)する。
後ろからだ!振り向くと、なんとも美しい女性が私に小さく手を振る。
あ…!カールさんと一緒にいたあの女性だ!
カールさんの探索隊のメンバーで紅一点の綺麗な人だ。名前は知らない。が、綺麗な人だ…。
「順番来たわよ」と私の背中をポンと叩く。
財布を出して精算を済ませた後、ゆっくーりと出口まで歩く…。
店を出るとき、彼女と偶然一緒になる。
紅一点さんは私をチラチラ見ながらソワソワしている。
「どうしたんだい?お嬢さん?」私は眉を細めて聞く。
「その財布…見せて」と優しくカツアゲされそうになる。
それでもいい、いっそそうなりたい…。私は言われるままに財布を差し出す。

彼女は微笑んで、自己紹介した。
「前に会ったことあるよね?工房の調子はどう?うまくいってる?」
ボチボチと答えると、ボチボチって何?と返ってくる。
彼女の名前はサラ・萬田というらしい。
日本人のハーフということだ。遺伝的に日本人の親から金髪碧眼は生まれるのか?
財布を受け取りサラは「やっぱり私と一緒の財布よ」と、嬉しそう。
私もこの財布を気に入ってる、何しろ薄さを追求したデザインで、ズボンの後ろポケットに入れても膨らまないのがいい!

そうなのよ!と嬉しそうに顔を近づけてくる!
おふぅ…いい匂い…。
「私、あまり鞄とか持たないし、パンツを履くことが多いから財布入れてるとお尻のラインが変に見えるのよね!身に付けるものはコンパクトが一番ね!」

全く同意だな、硬貨も10枚くらい入るから、小銭もカードもみんなコンパクトに収まる。
「自分のいつも持ち歩くものはできるだけ…」
「分かるわ!」サラが私を遮って話し始める。
「私も余計なものは身につけたくないし、持っていたくないもの!家でもそう、必要なもの以外は必要じゃないからね、家の中は殺風景ってよく言われるわ!」
「サラはあれかい?ミニマニストって…」
「違う違う!ミニマニストって必要最小限の物だけで暮らす人たちでしょ?自分にとって本当に必要な物だけを持つことでかえって豊かに生きられるという…みたいな?」また遮られた…
「私は主義みたいなものはないの。結局やってることは同じかもしれないけどね!」ウインクする。
「サラ様…今…私めに色目を使って…私も…」
またもや私の話を遮り、話し続ける。
「私はただの自己満足!ね。 ①必要なもの以外は、必要じゃない。 ②興味のないもの以外は、興味がない。 ③愛するもの以外は、愛さない。 ただ、これだけ!」
よく分からないが、楽しそうに自分を話し始めた。遮られたくて、私はまた話しかける…。

「この財布も、ほとんどカードとお金…」
「分かるわ!」と、遮ってサラが話す。おふぅ
「お金とカードは必要でしょ?でも財布って必要?って思ったことない?本当はマネークリップでお札とカードをはさんでポケットに入れておけばいいんだけど、硬貨がシャラシャラ鳴るのが嫌だしね、ビニール袋にお金入れておくのも見た目が悪いから、結論お金やカードをまとめておく何か?が欲しいのよ。邪魔にならないような…。この財布を見つけた時はピンときたのよね!」

「鍵も入るスペースまであるの。」と言われて初めて知った!本当だ!こんなところにポケット付いてた!スゲー!
しばらく語り続けて満足したのか?ハァハァ息を切らせて「じゃあまたね」と軽く手を振って行ってしまった。
コンビニで買い物したはずなのに、紙袋にフランスパン挿してるぞ!両手で抱えるしぐさ… なんて絵になるんだ…。

財布に限ったことじゃないが、サラの言うことは、なんとなく共感できた。
必要のないもの以外は、必要じゃない。興味のないもの以外は…ん?普通に当たり前のこと言ってるだけじゃあないか⁉︎
この財布もだいぶ古くなってきたなぁ…買い替え時かな?と、あれ?財布がない…。フランスパン持って歩かれているサラ様の後ろ姿を見る。
お尻の両ポケットが目立たないが、ほんのり膨らんでいる。あぁ…私の財布がサラ様のお尻に!
私は走り出す。お金はいらん!財布だけは返してもらおう!そして、買い替えるのはやめだ!
サラ様のお尻に触れた私の財布!これからはいつも、ずっと、私の胸ポケットしまうことにしよう!