『ポケカ』Vスタートデッキ雷の開封の儀

最近は朝から次男の珈琲屋でアイスコーヒーを飲むのが日課になっている。        

モーニングメニューはない…。

ここはいい…。

他の客が来ないからひとりになりたい時には最適な場所だ。

ドアを開けるとカランカランと揺られた鐘が鳴る。

周りを見渡すと、1人客がテーブルにいた。でかい男だなぁ…。スキンヘッドだし…。

この外国人、どこかで会ったことがあるような…と思ったが、アイスコーヒーがきたので、まず飲むことにした。

視界の隅に入ってくるビッグマンの背中が落ち着かなくさせる。「早く帰れ、早く帰れ」と念を送っていたら、ビッグマンは立ち上がった。

大男は会計を済ませている。

おぉ!念が通じた!早よ帰れ、やっと弟とお話ができる!

お金を払った男は『美味しかったよ』と言って、ドアを開け…ずに…私の隣へ…座った?

『久しぶり、調子はどうだい?工房やってるか?昨日こっちに着いたとこだよ』

思い出した。

こいつ名前は知らんがカールさんのメンバーの1人だ!ヨーロッパに行ってると思ってたら帰ってきてた!

『ウンベだ、名乗ってなかったよな、楽しみにしてたカードが入荷されたから取りに来たんだ』と、ドサっとテーブルに置いた。

手のひらサイズの箱が10個くらい。

カウンターの奥から『あっ!』と弟が声をあげて顔を背ける。

私はカールさん達の事をいろいろ聞きたかったのに、ウンベは目をキラキラさせてボードゲームの素晴らしさを私に語り続けた。

この人、ボードゲームが大好きらしい、中でも日本のポケモンカードはサイコー!!らしい。

ウンベの肩越しの向こうの次男が興味深々なのが分かる。

この小箱の中にカードが60枚も入ってるらしい。

ひと箱あげるよ、と黄色い箱を私にくれた。

また次男が『あっ!』と声をあげる。

ピカチューのジャケットに『Vスタートデッキ雷』と書いてある。

「ありがとう!開けていい?」

『もちろんっ!』ウンベの鼻の穴が大きく開く

ウンベの肩越しからテーブルを覗き込もうとチョコチョコ動く次男が、

チューチュートレインのウネウネダンスのように見えて、私は少しだけ微笑む。

箱を開けようとすると、ウンベと弟が同時に声をあげる。『カイフーノギ!!』

ハッとして、目があった2人は親指を立ててグッとした。

次男はカウンターから歩み寄ってきて、ウンベと並んで隣に座る。2人は肩を組み合い私の手元を睨みつける。

カードを箱から出して机の上に並べていく。 

まずは20枚…。カードを出すたびに目の前の2人は同じリアクションで、あぁ!とか、おお!とか言ってる。

さらに20枚。               

ウンベの顔が歪む。次男が彼の肩にそっと手を置き、首を振る。

そして20枚。               

声にならない声を出し、次男がカードに手を差し伸べる…がそれをウンベが制する。

私のお気に入りはこれらだな。        

向かいで2人がああだのこうだの言ってる。

ウンベと弟はもうすでに、何やら分からない呪文を唱えあって、カードバトル(?)を始めている。

ウンベはラテン系の外国人かな?     

こちらを見て私に言う。           

「素晴らしい弟君をお持ちで!!」

彼はデジタルゲームはあまりやらない、主食はアナログゲームだそうだ。

オセロや将棋や人生ゲーム、トランプのような類いのもの。   

ルールさえ知っていれば、国境さえも超越できる…などと、演説を始めた。

フェイストゥーフェイスでのゲームは心を豊かにする。

知らない他人が親友となり、心許せる親友が敵となる。

日常が非日常に変わる。  

この瞬間を味わえるのがボードゲームなんだ!

真剣勝負の邪魔をしては悪い。

カールさん達の情報はあまり聞くことができなかった。

しかしポケモンのカードをもらったから、少しくらいルールを覚えてもいいかな?くらいには思った。

カードを出すたびにガッツポーズや、頭を抱えたりしてる2人を見ながら私は珈琲屋をあとにする。

あいつら…いい顔しやがって…。

今日も暑く…いや、熱くなりそうだぜ…。

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