雨つづきでなかなか外出ができない事にモヤモヤしていた日だった。
少し晴れ間が見えたので、缶コーヒーでも買いに気晴らしに出かける。
散歩しながら、ふと思い出した。
次男とは歳が5つはなれているのだが、彼が3才くらいの頃、彼はクマのぬいぐるみをあつめてた。
手のひらに乗るくらいのものや、3才が抱きしめるには両手が回らないくらいのもの。
そのクマ達に彼は「バブちゃんマン』と名付けていた。
「1号」「2号」…10号くらいまでの数がいて
その全てを彼は愛していた。
その頃はたった一人の愛すべき弟をクマのぬいぐるみに取られた気がして私は小さな彼らに嫉妬した。
弟がクマ達を床に輪を描くように座らせて、お喋りをして遊んでいる光景は毎日の事だった。微笑ましかった。
その円卓会議を
『タイガーショォォットお!』
とあちこちにぬいぐるみを蹴り散らすのは爽快であった…。
弟は泣き叫び、うずくまりクマをかき集める姿が、腹を切られ、ぶちまけた五臓六腑を必死でかき集める何かに見えて滑稽だった。
私は嫉妬していたのだ。

買った缶コーヒーを飲みながら、そのほろ苦さはコーヒーのそれなのか、弟に対しての気まずさなのかは自分でも分からなかった…。
帰ろうとした頃にはまた雨が降ってきた。手にした空き缶をにぎりしめて、
ふと気づくと私の手は缶コーヒーの腹部にカッターナイフを当てていた。
「ボクのおとうと!」とバブちゃんマンを抱きしめる私の弟。
「いっしょに寝る〜」とバブちゃんマン達を抱える私の弟。
抱えた両手から落ちるバブちゃんマンを拾うとき、また一匹落ちるヌイグルミ、拾えばまた一匹こぼれ落ちる…。
そんな事を何度も楽しそうに繰り返す私の弟。
私は嫉妬していたのだ。
知らぬ間に手にした缶コーヒーは形を変え、
あの頃のバブちゃんマン…それに姿を変えていた。


弟への後ろめたさが少しだけ、また雨が止んで照りだしたこの空のように、私の心も晴れ間をみたような気がした。
手にしたバブちゃんマンをそっと床に置く。
少し救われた私は、笑顔でこう言う…。
『タイガァァァーショォォッットォォォォォ!!!』
バブちゃんマンは晴れた空に舞い、そして地面に叩きつけられる。

晴れた空を見上げる…。
私は嫉妬していたのだ…。