『DIY』ってお得なのか⁉︎

…行きたくない。

工房の仕事が入ってきた。

前に仕事をしたお客さんからのリピートだ。

「剛田さん」といって、壁紙の隙間を直しに行ったところだが、あそこの奥さん怖いんだよなぁ…。1人じゃ絶対行きたくない!

隣でウインナーにかじりついている三男を連れて行くことにした。

ウインナーにマヨネーズをかけて食べてるやつ初めて見たよ。

今回の依頼は、テーブルを作って欲しいとの事デザインは気にしない。

前に工房に来てもらった時に、隅にあった端材を見て、「この茶色い木が気に入ったから、これで作って」と言われた。

こだわりないのね。いちおう絵を描く。

端材とはいえ、いちおうタダではない。

SPF材…38×89×1500 400円/本      ホワイトウッド材…30×90×1500 350円/本  ホワイトウッド材…15×40×1500 160円/本

材料費でだいたい7000円くらいか。

私の作業費(色も塗ったことにする)は12000円くらい。(三男は考えないものとする)

約20000円のテーブル。お客様も了承してくれた。ニトリで買えば同じ額で良いもの手に入るのに…。とは言わない。

赤い屋根。『剛田』の表札。         目の前での夫婦喧嘩だけはやめていただきたいのだが…。

ウインナーを食べ終えた弟がビールあると最高なのになぁ!みたいなドイツっぽい事を言っている。無視する。

インターホンを押すと、奥様が出てこられた。

「いらっしゃい!お待ちしてました。」   「タケシさ〜ん!来たよ〜!」       お、機嫌は良さそうだ…。

旦那が2階に通してくれる。         2階に上がる途中「階段から落ちちゃってね」と、聞いていないのに旦那は言った。

アゴが割れたらしい。鼻下から首まで包帯で巻かれ、右腕はギプスをはめている。

2階の広いスペースに招かれ、ここでテーブルを作ることに。

ヨイショっと三男が持ち運んだ木材を置く。

このスペースにテーブル必要か?      ミニキッチンと冷蔵庫、タンスとゴチャゴチャいろいろ置いてある。あと大型犬のオリ?

小屋みたいなものが置いてある。      大型犬を遊ばせるスペースか?

犬は飼ってないようだが…。

とりあえず始めよう。木材を組んでまずは脚になる部分を作る。材料は寸法に切ってきたからビスで固定していくだけ。

仮組みを終えて、天板になる板を上に並べる。

下で『ギャンッ!!』と犬(?)の鳴き声が聞こえた。 犬いたのか?

『やっとるね。』と旦那が2階に上がってきた。少し見ててもいいかな?と部屋の隅でタバコをふかしている。

嫌な予感しかしない。弟は意外に楽しそうにテーブルを作っている。

旦那が話しかけてくる。

「お宅ら兄弟なの?弟さん、いい仕事っぷりだねぇ!もう結婚とかされてるの?」

三男は「彼女がいます、可愛いス」と返す。

三男は照れ臭そうに笑う。          私はギョッと目を見開く。            奥様が旦那の後ろに立っている…。          旦那は気付かずニヤニヤと笑い、

「うちのシズカも昔は可愛かったんだよ、今はちょっと嫉妬深くてね、まぁ愛情の裏返しだと思え…バッ⁉︎」

後ろから奥様の手が旦那のアゴを掴み、一気に後ろを振り向かせる。旦那の首が180°グルンと回り、奥様と目を合わせた。

旦那はそのままタンスの影に連れて行かれ、声にならない叫び声だけが聞こえて来る。

始まってしまった…。心は痛むが、我らに出来ることはテーブルを作ることだけだ。

私はテーブルの天板を並べ終えて固定しはじめる。

タンスの向こうから、何かを砕くような鈍い音が聞こえてくる。クーラーの無い2階の蒸し暑さに目を閉じると懐かしい記憶が蘇る。

アレだ…10代の頃、海辺でスイカ割りをした時のあの暑さと、音だ…。

ハッと我に帰り、目を開けると三男がタンスの向こうから聞こえて来る音のリズムに合わせて体をスウィングさせている。ノリノリだ。

楽しそうに冷蔵庫の扉を開けて缶ビールを2本出す。「飲めよ、おごりだ」と1本私に投げてきた。

目を閉じてビールを飲むと、ここはやはりビーチなのでは?と思った。

海は血に染まっていた。

あと少しで完成だ。

奥様がタンスの影から現れる。

愛情の裏返しで、顔の向きを裏返しにされた旦那は胸ぐらを掴まれ、大型犬用の檻の中に投げ込まれる。

「今日もそこで寝てちょうだい!」

奥様が言う。「作業の途中で申し訳ありません、少し用事ができてしまったので、今日はこれまでにしてもらえないでしょうか?」

と、旦那の皮財布から20000円を取り出し、私に渡してくれた。

「あとは旦那に仕上げてもらいますね」

ゲージの中の旦那を見る。右腕のギプスにあの左腕の曲がり方だと両腕使い物にならないな…

この部材をぐるりと天板に取り付けて完成だったが…後ろ髪引かれながら、ため息をつく。

「奥様、椅子がありませんが、また良ければ色を合わせて作らせてもらいますよ」と営業しておく。

「ありがとうね。でもいいわ、イスはないけどイヌなら一匹いるから、それに座るわ。」

私はチラッと犬小屋の中を見ると、イヌと目が合う。目を逸らす。

奥様が私と弟の背中を押す。階段を下り、玄関の外まで押し出されると扉が閉まり、ガチャリと鍵がかかる音がした。

ふと思う。

サイズ150cm×90cmのテーブルを20000円の予算で手に入れようとするなら、手作りよりもっと良いモノがあるのでは?と。

調べてみる。…あった!

もう、コレ買えよな。椅子付いてるし…。

酔っぱらった弟の肩を抱き、工房へ帰る。

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